大判例

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福岡地方裁判所 昭和24年(ワ)263号・昭24年(ワ)603号 判決

原告 稲光榮一

被告 渡邊良郎 外一名

一、主  文

原告に対し被告渡辺良郎は福岡市大字春吉新屋四百九十六番地上木造瓦茸平家住家一棟建三十坪五合(内台所寄り三疊一室を除く)を被告人大田は石建物の内東側三疊一室を夫々明渡すべし

訴訟費用は被告等の負担とする

本判決は第一項に限り原告が被告渡辺に対し金一万二千円、被告大田に対し金二千円の担保を供するときは仮に執行することが出來る

二、事  実

原告代理人ば主文第一、二項同旨の判決並家屋明渡の部分に限り仮執行の宣言を求め請求原因として原告は被告稲光に対し昭和十四年九月四日主文第一項の建物を期限を定めず賃料一ケ月金七十円月末拂、賃借人は賃借権を讓渡し又は賃借物の一部若くは全部を轉貸したり家族雇人以外の同居人を置いてはならず若し之に違反したときは催告を要せず解除し得る等の約定で賃貸したところ同被告は右約旨に反し被告大田金松外二人を同居させたので昭和二十四年五月十五日被告に到達した書面で賃貸借解除の意思表示をした、仮に右解除が效力を生じないとしても右は解約申入としての效力もあると解すべきであるから六ケ月の経過によつて解除された、原告は昭和二十一年十一月家族と共に朝鮮から引揚げて來たものであり、被告方に二、三泊させて貰つたが被告が永く同居させてくれないので止むを得ず久留米の妻の実家を頼つて同居させて貰つた、しかし原告の家族は原告夫婦に子供四人、母一人の七人世帶で原告の職業と部屋の都合で其処にも永居が出來ないので被告に相談の上昭和二十四年四月に漸く裏の三疊一室を明けて貰い妻及女兒三人が起居するようになつたが出入は裏口からし、炊事は風呂場でする等全く不自由であり、小学四年生の四女は最早入れないので、やむなく母の手を離れて高校教官である原告の処(山口縣)に來て居り、母は久留米に別居しているとゆう慘状である以上の事情は解約申入をなすに付正当の事由にあたると思ふ、被告大田は何等の権原なく表三疊一室を占有している更に被告抗弁の如く本件賃貸借契約は被告渡辺と訴外住友信託株式会社との間に締結されだものであるが右訴外会社は原告の委任を受けて本件家屋を管理して居り之が管理の手段として原告の代理人として被告との間に右契約を結んだものであるが右委任契約は昭和二十四年五月十日合意解除された、其の他被告抗弁事実は否認すると陳述した。

<立証省略>被告代理人は原告の請求棄却の判決を求め答弁として原告主張日時被告渡辺は訴外住友信託株式会社との間に原告主張建物に付原告主張内容の賃貸借契約を締結したが原告から右家屋を借受けたことはない、右訴外会社は信託法に基く管理として右契約を結んだものであるから当事者は右訴外会社であり原告には当事者適格がない、仮に原告との間に賃貸借が成立したとしても轉貸禁止等の約定は借家法第六條の規定により無效であるから原告の解除は效力を生じない被告大田は被告渡辺の家族又は之に準ずるものの一時同居であつて右約定に反するものではないと述べた。<立証省略>

三、理  由

被告渡辺と訴外住友信託株式会社との間に原告主張日時その主張の賃貸借契約が締結されたことは当事者間に爭なく、右訴外会社が原告の代理人として右契約を結んだことは成立に爭のない甲第一号証及証人山岡信貞の証言により之を認めるに足り他に右認定を覆し被告抗弁の如く右会社が信託法に基く信託によつて当事者として右契約を結んだと認むるに足る証拠は全く存しない。

次に原告主張日時原告が被告渡辺に対し賃貸建物の一部無断轉貸を理由に賃貸借解除の意思表示をしたことは同被告の明かに爭はないところであり同被告が被告大田に本件家屋中三疊一間を使用させていることは被告渡辺の認むるところであるが余裕住宅の解放が法制的にも取上げられている最近の情勢では貸家問題は純然たる私的利害のみによつて之を決することが出來ないことは自明であつて借家の全部的轉貸等ではなく余裕ある一部を住居に困つている第三者に使用させる賃借人の行爲はそれが借家の價値を著しく毀損するとか家主に対する重大な不信行爲になるとか其の他社会的に見ても許すべからざる行爲であると見られるような特殊な事情がない限り直ちに賃貸借解除原因となるとは解せられないところ原告は斯る事情があることを主張立証しないから原告の解除の意思表示は效力を生じない、しかし乍ら右解除の意思表示は格段の事情がない限り右解約申入の效力をも併せ有するものと解すべきであるから以下解約申入について正当の事由があるかどうかについて考えるに証人稲光三四及渡辺芳子の各証言及檢証の結果を綜合すれば原告及その家族が原告主張の如く寔に困難な住居状態にあること、原告は被告渡辺に対し昭和二十四年五月初頃本件家屋中三疊六疊の二室の明渡方を要求したが辛じて三疊たけの明渡を受け同被告は更に一、二室の明渡しが出來る状態にありながら右三疊以外には原告に讓らうとしないこと、被告は現在門司市の國有鉄道公社の寮に住んで居ることが認められ、右認定事実は原告が被告渡辺に対し解約申入をなすについて正当の事由にあたるものと解するのが相当であるから本件解約申入は有效である、從つて被告渡辺から一室を借受け使用している被告大田も亦之を占有する権限がないことになるから原告に対し該室を明渡さねばならぬ以上の理由により原告の本訴請求を認容し民事訴訟法第八十九條第百九十六條に則り主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝)

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